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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)10693号 判決

原告 笹本清二

右訴訟代理人弁護士 遠藤雄司

被告 鳳工業有限会社

右訴訟代理人弁護士 磯崎良誉

同 磯崎千寿

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は原告に対し、別紙目録記載の各不動産について、東京法務局墨田出張所昭和三九年一月三〇日受付第二、三三七号抵当権設定登記の、同法務局同出張所同日受付第二、三三八号停止条件付所有権移転仮登記の、同法務局同出張所同日受付第二、三三九号賃借権設定仮登記の各抹消登記手続をせよ。

2.訴訟費用は被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.原告は、別紙目録記載の各不動産(以下本件不動産という。)を所有しており、その所有権取得原因は次のとおりである。すなわち、本件不動産は、もと訴外佐藤静(以下佐藤という。)の所有であったが、原告は、佐藤から、昭和四六年一一月一八日別紙目録(一)、(二)記載の各宅地を買い受け、右(一)の宅地については昭和四七年二月一八日、右(二)の宅地については同年三月二一日それぞれ所有権移転登記を経由し、また昭和四五年一二月一〇日別紙目録(三)記載の建物の所有権を同人から代物弁済により取得し、昭和四六年三月九日その所有権移転登記を経由した。

2.本件不動産については、前記請求の趣旨記載のとおりの抵当権設定登記、停止条件付所有権移転仮登記、賃借権設定仮登記の各登記が経由されている。

ところで、右各登記の原因たる契約は、被告が佐藤に対して有する昭和三九年一月二九日成立の、旧債務を両者間の商取引債務金一、六一二、三六七円とする準消費貸借契約に基づく債権(被担保債権)を担保するために締結されたものである。

3.しかるところ、右被担保債権は以下の理由により消滅し、従って、右抵当権及び右各登記上の権利はすべて消滅した。

(一)佐藤は、右準消費貸借契約に基づく弁済期の昭和三九年二月二八日、右被担保債権金一、六一二、三六七円を全額弁済した。

(二)仮にそうでないとしても、右被担保債権は商行為に基づくものであって、弁済期を昭和三九年二月二八日としていたところ、

(イ)右弁済期から五年を経過した昭和四四年三月一日をもって消滅時効が完成したので、原告は本件不動産の特定承継人として、右時効を援用した。

(ロ)右(イ)の主張が認められないとしても、右弁済期後の昭和四三年六月一日から五年を経過した昭和四八年五月三一日をもって消滅時効が完成したので、原告は本件不動産の特定承継人として、昭和五〇年五月一六日の本件第七回口頭弁論期日において右時効を援用した。

4.よって、原告は被告に対し、本件不動産の所有権に基づいて、本件各登記の抹消登記手続を求める。

二、請求原因に対する認否

1.請求原因1の事実中、原告が本件不動産の所有権をその主張の原因により正当に佐藤から承継取得したとの点を否認し、その余の事実は認める。

2.同2の事実は認める。

3.同3の事実中、(一)の事実は否認し、(二)の事実中、被担保債権が商行為に基づく債権であって、弁済期を昭和三九年二月二八日としていたことは認める。その余の事実は争う。

三、抗弁

佐藤は、左記記載の年月日ころ、いずれも、被告の被担保債権の請求に対し、右債務の存在することを承認して弁済の猶予を懇願したので、左記記載の各日時に時効は中断した。仮に昭和四九年三月六日までに時効が完成していたとすれば、同日、佐藤は被告に対し、時効完成後の時効利益を放棄した。1 昭和三九年三月ころから昭和四三年四月までの間毎月末日頃。2 昭和四三年六月中。3 昭和四三年九月中。4 昭和四五年九月中。5 昭和四九年三月六日。

四、抗弁に対する認否

全て否認する。

第三証拠〈省略〉。

理由

一、請求原因1の事実中、本件不動産がもと佐藤の所有であったこと、本件不動産について原告のため各所有権移転登記が経由されていることは当事者間に争いがなく、証人佐藤静の証言によれば、原告が、原告主張の原因により佐藤から本件不動産の所有権を取得したことが認められ、これに反する証拠はない。

二、請求原因2の事実については、当事者間に争いがない。

三、請求原因3の(一)の事実については、本件全証拠によってもこれを認めることはできない。

四、そこで、本件被担保債権の時効による消滅の成否について判断する。

1  被担保債権が商行為に基づく債権であって、弁済期を昭和三九年二月二八日としていたことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によって、右弁済期から、もしくは昭和四三年六月一日から、いずれも原告の本訴提起時までの間に各五年を経過していたことが認められるから、右債権は、被告主張の時効の中断または時効完成後の時効利益の放棄が認められないかぎり、時効により消滅していることになる。

2.そこで、まず被告主張の時効の中断が認められるかどうかについて検討する。

(一)まず、被告は、昭和三九年三月から昭和四三年四月までの間毎月末日頃、佐藤は被告に対し、債務の承認をしたから時効の中断があった旨主張するが、本件全証拠によっても、右主張事実を認めることができないから、右主張は理由がない。

(二)次に、被告は、昭和四三年六月中に佐藤は被告に対し債務の承認をしたから時効の中断があった旨主張するので検討するに、被告代表者安藤広成の本人尋問(第一、二回)の結果によれば、佐藤が東京都墨田区寺島七丁目から千葉県松戸市新作に住所を移転した後の昭和四三年六月下旬ころ、被告会社代表取締役安藤広成が佐藤を訪ねて、本件被担保債権の弁済を督促したのに対して、佐藤が「何とかして支払うから待ってほしい。」などと述べて、弁済の猶予を求めたことが認められ、右認定に反する証人佐藤静の証言は右各証拠に照らし、当裁判所のにわかに措信しえないとこころであり他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右事実によれば、佐藤は、被告の有する本件被担保債権の存在を昭和四三年六月下旬ころ、承認したものというべく、右承認は時効の中断の効力を有するものといわなければならない。よって、被告の右主張は理由がある。

そして、右承認は、原告の消滅時効に関する前記第二、一3(二)(イ)及び(ロ)の一次的及び二次的主張にかかる各時効期間進行中になされたものであるから、いずれに対しても時効中断の効力が生じたものといわなければならない。

五、以上のとおりであるから、その余の判断をするまでもなく、原告の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 寺西賢二)

〈以下省略〉

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